修猷ラグビー史上最強チームの闘将・マエストロ

修猷館ラグビー部の史上最強チームは諸説ある。昭和24年全国大会優勝（国体単独チーム）前後の数年間は常に全国でもトップクラスの実力を持ち当時の全国大会が行われた西宮球場で六光星が躍動した。しかし戦績をひもとくと全国レベルでの史上最強チームは昭和29年（高校は昭和30年卒）のチームではないか、という見方も出来る。このチームの主将を務めその中心にいたのが後の日本代表SOの平島正登さんである。

・なぎさクラブ（伝説の少年ラグビー）の先進性
　平島の父は昭和6年旧制中学卒の修猷ラガーである。創部が大正13年なので創成期のプレイヤーであった。平島は当時の福岡学芸大学付属小・中学校（現在の教育大付属中）に入学するとこの父の影響もあり放課後に行われたラグビークラブ（なぎさクラブ）の練習に参加した。当時小学生は腰に紐を付け紐を取るとタックル成立、ルールは驚くことに今のタグラグビーそのものである。中学校ではタックルありの練習を行ったが指導していたのは主に当時の修猷・福高の現役・OBであり、その厳しくも愛情のある指導を受けた付属中のラグビー経験者も卒業後に修猷・福高に分かれて試合で何度も相まみえた。少年ラグビーの老舗中の老舗、草ヶ江ヤングラガーズが出来る20年以上前にこのなぎさクラブで本格的に少年ラグビーの指導が行われていたことはあまり知られていない事実であるが、このクラブが当時の福岡の高校ラグビーを支えていたと言っても過言ではない。特に昭和27～28年にはこのなぎさクラブの経験者が多く修猷館に入学し入学当初から活躍した。小学生からラグビーに親しんだ平島も高校入学直後から試合に出場、3年間ほぼ全ての公式戦に出場した。

・秋田工業との激戦～痛恨のノータッチ判定
3年間での一番の思い出は昭和29年全国大会での秋田工業との1戦である。昭和28年（平島2年時）には全国高校ラグビー大会（第33回大会）で優勝した福岡高校の凱旋試合にて返り討ちで勝利し全国レベルの実力を証明した修猷館は当時優勝候補筆頭の秋田工業を倒すべく猛練習を積み翌年の全国大会1回戦で対戦がかなった。この試合、雪国で足腰を鍛えた秋田工業ＦＷは強力でＦＷ戦では若干劣勢だったものの平島を中心とする修猷バックスが躍動し終了間際までリード、秋田工業も必死の反撃で応戦したが最後に左ウイングがタッチに押し出されて万事休す、と思われた。全員の動きが止まった瞬間、『タッチジャッジが旗上げてないぞ』という声。グランドにいる全員が次はラインアウトと思い動きが止まった直後、突然秋工ウイングが走り出してトライ。何と逆転負けを喫したのだった。よくセルフジャッジをするな、と言われるがこのプレーはその域をはるかに超えていたとの話。自軍で左側のタッチジャッジを出していた頃のほろ苦いエピソードである。その後、秋田工業は慶応高校に決勝で惜敗するも準優勝、ほんの少しの差で全国優勝のチャンスを逃した修猷フィフテイーンは卒業後、集まる度に悔しい酒を酌み交わしたという。

・日本代表／九州代表で活躍
修猷館を卒業した平島は慶応大学に進学、こちらも入学当初からレギュラーで活躍した。大学3年時にBK（SO/CTB）で日本代表に選抜され代表戦に出場。しかし当時は海外からの遠征チームは少なく国内では日本代表対3地域代表（関東・関西・九州）がトップレベルの試合であった。日本代表のエースウイング宮井国夫選手（明治大～八幡製鉄、百メートルを10秒6で走るスピードスター）は３地域代表戦では九州代表として出場、ステップ、パスのうまい平島をCTBに指名し九州代表でコンビで出場することを望んだ。
2年間、日本代表のSOを務めたものの九州代表も兼任していた平島のキャップ対象試合はオックスフォード・ケンブリッジ大連合との1試合のみ。しかしこの試合は修猷同期で早大に進んだ結城昭康も日本代表チームで出場、修猷館同期2名がキャップを獲得した。

・70代まで現役でプレー。
慶大を卒業した平島は横河電機（現在のアトラスターズ）に入社、同社のラグビー部創成期にプレーした。横河の現役を引退後は不惑倶楽部（世界初の年齢40歳以上のラグビークラブ）にてプレー。70代まで試合に出場しクラブ全体の代表を務めた。言ってみれば日本のシニアラグビーの頂点であり、不惑倶楽部の幹部連中に言わせると『修猷館と言えば平島大先輩』、ということでラグビー界では長く母校のアイコンとして活躍、修猷館ラグビーの名前を轟かせた。

・67年ぶりの再戦～秋田工業に雪辱
2022年（令和4年）3月25日、全国選抜ラグビー大会に出場した修猷館は1回戦で秋田工業と対戦。何とこの試合はチーム平島が敗れた全国大会以来、67年ぶりの公式戦での対戦であった。コロナの影響が残るこの年の選抜大会は無観客で行われた為、在京のOBは新宿のカラオケボックスに集結、皆で熱気溢れる応援を行った。試合は終始修猷が攻め31対10のスコアで快勝、85歳の平島は勝利の瞬間立ち上がり『彼の群小』を熱唱、応援の皆がそれに続いた。67年ぶりの雪辱に沸く現役チームからの最高のプレゼントとなった。

・修猷ラグビー 弥栄（いやさか）
このように小学生から70代まで60年近くラグビーに関わった平島は『ラグビーは自分の人生そのもの』であり、戦後すぐ焼け野原の時代から西新のグランドでずっと修猷ラグビーが綿々と続いていることにOBとしてとても嬉しく『感謝』していると言う。福高とはずっとライバルであり今後も切磋琢磨していって欲しいと望む。今も赤いジャージを見ると闘牛士のようにカーっと頭に血が上るが、そういう気持ちが長生きの秘訣かも？と笑う。

文：佐伯智洋（S58年卒）